赤い糸
第3章 ネックレス
触れたかった。
甘い香りが漂うおまえの体に…
人間とは欲深いもので逢えれば話したくなり触れたくなる。
色素が薄い茶色くて細い髪をそっと撫でる。
何一つ変わらない感触…そうこの感触。
触れたかったんだ。
おまえが大好きだと言ってくれたこのマメだらけな手で
触れれば何か思い出してくれるんじゃないかって…気付いてくれるんじゃないかって…
そんな思いを込めながらそっと撫でた。
でもな、今この髪は俺のモノじゃない。
「…うっ…」
「え…」
「璃子?大丈夫?」
美紀ちゃんが璃子にそっと寄り添って背中を擦る。
無理させちゃいけないのに我慢できなくて暴走しかけたオレ…
「ゴメン…調子に乗りすぎた。」
「大丈夫…です。ゴメンナサイ…」
あんなに赤かった頬が申し訳ないほど蒼白い。
それなのに璃子は俺の胸を締め付ける。
なんで?なんでなんだよ…
コメカミを押さえたかと思ったらもう片方の手でネックレスのトップを指でなぞる。
そう…そのネックレスをプレゼントしてからのおまえの癖
華奢な人差し指と親指で挟むように添えて感触を確めるようにゆっくりと撫でる。
それは紛れもなく俺と繋がっていた証拠だった。
*
「ゴメンな。」
暫くすると璃子は痛みが少し治まったのか申し訳なさそうに顔を上げた。
「い…いえ京介さんのせいじゃありません。」
必死に言葉を紡ぐ璃子に俺は首を横に振った。
少しだけゆっくりとした時間が流れる。
気付けばアイツらは気を利かせて倉庫へと歩いている。
「野球どうだった?」
俺たちは向き合いしゃがみこんだまま言葉を交わす。
「…楽しかったです。」
こうすればコイツと自然に視線が重なるから。
「また来てくれないかな。」
「でも…迷惑かけちゃいますから…」
さっきあんなに苦しめたばかりだというのに俺はまたおまえを欲しがる。
「かけてよ。」
「…え?」
「俺に迷惑かけて?」
大きな瞳がゆらゆらと揺れる。
「ダメ?」
璃子の瞳はいつ見ても綺麗だ。
「ダメ…じゃ…ないです。」
自然と璃子の口から漏れた言葉に俺は目を細める。
「ありがとう…璃子ちゃん。」
どうしても繋がっていたいんだ。
「いつでも待ってるから。」
顔をクシャクシャにして笑うおまえに
「はぃ。また来ます!」
また逢いたいんだ。