赤い糸
第4章 優しい心
「…マジ?」
俺らたぶん一斉にこう呟いたと思う。
待ちに待った美紀からの返信第1号は
『ここに着いてから京介さんのことばかり話してます』
だなんて。
「京介!よかったな!」
ずっと黙りこんで生ビールを飲んでいた京介さんはそのメッセージを読むと安心したように大きく息を吐いた。
「やっぱ繋がってんだな!」
長谷川さんも佑樹さんも無意味に何度も乾杯してこの第一報を喜んだ。
「アハハッ…また着ましたよ。京介さんの今日の武勇伝を聞かされてる。だって。」
「おいおい京介、おまえ璃子ちゃんに何したんだよ。」
大した作戦を練ったわけじゃなかった。
っていうか、蓋を開けてみたらあんなに考えたシナリオなんて必要なかったんだ。
俺らはどうやって二人きりにしようかとか、口下手な京介さんに何て台詞をはかせようかとかガキみたいに頭を悩ませたけど
「何にもしてねぇよ。」
一度結ばれた二人は心の奥底で繋がってたんだね。
京介さんは璃子ちゃんにしか見せない柔らかな笑顔で微笑み
璃子ちゃんは頬を染めながらも京介さんだけを見ていた。
隣にいた美紀と俺は何度目頭が熱くなったかな。
「これじゃあ時間の問題じゃねえ?」
「そうだな。意外に早く思い出すかもな。」
喜びすぎている先輩二人。
でも、当の本人はまだスマホを眺めながら俯いていた。
「京介乾杯だ!今日は飲むぞ!」
「だな!プレ祝勝会ってところだな!」
店員を呼び止めおかわりをオーダーする先輩たち。
「俺も!レモンサワーお願いしていいっすか?」
俺もその波に便乗したとき
「アイツ…たぶんもう来ないと思う。」
京介さんはポツリと呟いた。
「おまえ何言ってんの?」
佑樹さんは少し声を荒げて弱気な発言をする京介さんの肩を抱いた。
でも 京介さんは静かに微笑むと
「見ただろ?俺が触ろうとすると体が拒絶するんだぞ。」
「それはたまたまだろ?」
長谷川さんもイライラとした声で言い放つ。
だけど京介さんは
「いや…例えそれがたまたまだとしても、人の気持ちを第一に考えるアイツはもう来ないよ。」
そう言い放ってジョッキを一気に煽った。
ピロリン♪
「え…」
美紀からのメッセージ
『もう球場には行かないって言い出した』
京介さんも璃子ちゃんも繋がっていなくていいところまで繋がっていたんだ。