赤い糸
第4章 優しい心
「球場でなんかあった?」
おかわりのコーヒーを差し出すと美紀は前のめり気味に私の瞳を覗き込んだ。
「つまらなかった?寒かった?誰かに何か言われた?」
まるでお母さんのように美紀はいつもこうして私を心配してくれる。
「楽しかったよ…スゴく楽しかった。野球も楽しかったしみんな優しかったし…また行きたいと思った。」
美紀はうんうんと相槌を打ちながら私の紡がれる言葉を待つ。
「でもね、あそこに居たら達也さんに申し訳ないなって…」
楽しすぎたから深入りしないようにしようと思った。
「行くなって言われてたの?」
「ううん。快く送り出してくれたよ。だからもう行かない。」
「なんでよ…」
今日1日本当に楽しかった。
それは少なからず京介さんが居たからだと思う。
その事を美紀に打ち明けていいのだろうか…
いつもならさんざん悩んだ挙げ句心にしまってしまうけど
「二人だけの秘密にしてくれる?」
「もちろんよ。」
この感情を一人で背負いきれないでいた。
*
『頼む!思い直させて!』
直也からのメッセージを読むと私はスマホを裏返した。
…私だって同じ気持ちだよ。
あんなに楽しそうに話していたのにどうして?って私の頭こそこんがらがっていた。
「話してみ。」
覚悟を決めて璃子の瞳を真っ直ぐに見据えると
「私…京介さん苦手かも…」
璃子は思いもしない言葉を紡いだ。
「は?アンタあんなに楽しそうに話してたじゃない。それとも…何かされた?」
原因が何なのか頭をフル回転させながら璃子の言葉を待つと苦笑いをしながら
「あの人…危険だ。」
「危険?」
何が言いたいの?何をされたの?
「あっ!頭撫でられたから?」
「そ…それは違う!」
「じゃ、口が開いてるって笑われたから?」
繋がっているときはいつもあんな感じだったのに…
「違うよ。…絶対に誰にも言わない?」
「言わない。」
璃子は寂しそうに微笑み
「居心地が良すぎたの。」
「え?」
「こんな気持ちでまた京介さんに逢ったら達也さんのこと裏切ることになるから。」
忘れてた。優しい心の持ち主のあなたは相手の気持ちを考えて、心に芽生えた大切な芽を摘み取ってしまうんだった。
「やっぱり何かあったんだね。」
コクりと璃子は頷くと京介さんからもらったハートのネックレスに指を添えた。