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赤い糸

第7章 サクラ


信号待ちで目線だけ動かして璃子の横顔を覗いてみる。

…ホントに

だいぶ表情が柔らかくなってきたな。

その微笑みが 俺たちの2度目の恋は始まったと思わせてくれる。

「あの…」

「ん?」

「アメ食べます?」

こんな風に璃子から話しかけてくれることも大きな一歩。

「持ってるの?」

「のど飴ですけど…はぃどうぞ。」

でも、欲張りな俺は掌に乗せてくれたアメが欲しいんじゃなくて

「剥いて。」

「あ…そうですよね。」

「ん。」

「ん?」

「あーん。」

「…。」

少しでもおまえとの時間を楽しみたい。

「早く。」

「…ぁーん。」

もう一度か…

顔だけじゃなく首まで真っ赤に染めながらアメの包み紙を握りしめる璃子が初々しくて

付き合い始めたときに“お試し期間”を儲けたことを思い出す。

俺は今回、自分の口から彼氏はオレだったとは伝えないつもり。

それはコイツのお母さんと璃子に負担をかけないって約束したから。

きっと優しいコイツのことだ。気持ちが追い付かなくても申し訳ないと無理して俺との関係を望むだろう。

ただでさえ、今の璃子は無くしてしまった記憶のために無理して行動し始めてるんだから。

付き合う前の璃子はいつも美紀ちゃんの後ろに隠れてたのに 今日は一人で球場まで足を運んでくれた。

それだけ無くした記憶を必死に探し始めてる。

もう、あのときの弱い璃子じゃない。

記憶が戻らなくたって新しい道を歩めるぐらい一本芯の通った女性になったんだ。

「あの…お腹減ってませんか?」

「死ぬほど減ってる。」

ほらな、あのときには想像もできなかったろ?話し掛けてくれるどころか腹が減った俺を気遣って誘ってくれようとしてる。

「じゃ…今日は私にご馳走させてください!」

でも、律儀なところは変わってねぇか。

「璃子の奢りか。じゃ、飯食いに行くか。」

「はぃ!」

この笑顔も変わってねぇな。

「どこに行きます?」

「璃子はどこがいい?」

「私は…半分こ出来るとこがいいです。」

「ってことはあの定食屋か。」

ゴメンな。俺はおまえのこと知ってるから

「ダメですか?」

大食いのオレをおまえが気遣ってくれてるのがすぐ分かっちまう。

「いいよ、そこ行こう。」

ゴメンな、俺ズルくて。

でも、このぐらいのご褒美貰ってもいいだろ?

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