赤い糸
第7章 サクラ
「おーぃ!こっちこっち!」
「すいません!遅くなりました!」
仕事終えて電車に飛び乗って美紀と走ってきたこの球場。
「勝ってます?」
「もちろん!」
慣れた感じで幸乃さんと肩を並べて階段を昇る美紀の後ろを大きく息を吐きながら登っていく。
…大丈夫大丈夫
美紀が言うとおりみんないい人のはずだから
スタンド席で一際目を引く奥さまと彼女さんの集団を知ってはいた。
先週幸乃さんに誘われて何も考えずに首を縦に振ってしまったけど
…美紀はスゴいな
今はただ、ひたすら後悔している。
だって 私は奥さんでもなければ彼女でもない。
友達?それも違うと思う。
黄色い声援を一手に受ける彼のツレとしてそんな場所に行ったら顰蹙を買ってしまうんじゃないかって
…どうしよう
階段を一段上がる毎に足取りは重くなるんだけど
昇りきったその時に
「璃子!あんたはココ。」
「えっ!?」
私は知らない人から名前を呼ばれ座席を指定され
「はい、メガホン。」
「あ、ありがとうございます。」
何事もないようにその集団に吸収された。
「ほら京介だよ。」
「あ、はい!」
そして気付けば渡されたメガホンを握りしめ
「アイツまだ塁に出てないんだよね。」
「璃子、デカい声で応援してやりな。」
「はぃ!」
背中をドンと叩かれるとその勢いで立ち上がり
「京介さーん!頑張って~!!」
無意識に声を張り上げる私がいた。
もし、記憶の扉があるとしたらほんの少し開いたかもって
「ヤッター!打った~!」
璃子のその笑顔を見てたら思ったよ。
「璃子のお陰だね。」
「そんなことないよ。」
あなたのことを心底心配してくれていた魔女と呼ばれている奥さまたちが 涙を浮かべながら塁に出た京介さんに声援を贈ってる。
本当はねみんな璃子に抱き付きたいはずだよ。
スゴく璃子のことを心配してたんだから。
今日だってどう接したらいいかってついさっきまでLINEが賑やかだったの知らないでしょ?
「京介さんが手振ってるよ。」
でも、そんなの要らなかったね。
「ナイスバッティングでーす!」
この場所に来ると勝手に心と体が動きだしてしまうでしょ?
思い出すことができるならきっとこの場所だと思う。
二人が初めて逢って想いを育んだ場所
…璃子 頑張れ