赤い糸
第10章 壁
「大丈夫だって。」
駅で待ち合わせた京介さんに深々と頭を下げたってなんにも解決しないのはわかってる。
「本当にすみません。」
アメリカ行きを決断したあの日に京介さんの胸に飛び込んだ私はまだ記憶を無くしたままだ。
「腹減ったから早く店行こうよ。」
「あ…はぃ!」
それなのに京介さんは溜め息を吐く私の手をいつものように掬い指を絡ませ
「おまえなに食いたい?」
「私はなんでも…」
何事もなかったように繁華街を歩き始めてくれる。
「たまには中華にでもするか?」
「いいですね。半分こにできますし。」
その優しさについつい甘えてしまう私は今京介さんの彼女として歩み始めて一週間が経とうとしていた。
*
「このシュウマイ、海老だらけです!」
「当たり前だろ。海老シュウマイなんだから。」
今日も二人で一つのお料理を分けあって二人だけの特別なメニューを作る。
「なんですか?」
「相変わらず旨そうに食うなって。」
そして私だけ無くしてしまった時間を京介さんに少しずつ埋めてもらう。
「そういえばカレー。おまえ忘れてねぇよな?」
「も…もちろんですよ。」
恋人同士になった今、もう一度と始めなきゃいけないこと…
「明日は?仕事半日だろ。」
「は…半日ですけど…」
避けて通れないこと。
「じゃ、作りに来てよ。」
一度や二度ではないお互いの心の交換を
「おまえ…変なこと考えてんだろ?」
「へ?」
「アハハッ!おまえ口開けすぎだって。」
「はっ!」
もう一度はじめなきゃいけない。
でも彼は優しいから
「安心しろ…その時が来るまでおとなしく待っててやるから。」
無理して笑う。
その笑顔はきっとこの間の帰り道、私がキスを避けてしまったせい。
あの時も同じように一瞬視線を落としてから無理して笑った。
「いやさ、うちに来てみれば何か思い出すかもしれねぇじゃん?」
その気持ちに応えたいと思っているのに…
記憶を無くした私は彼を困らせていた。
「いや、おまえのもんが結構あんだよ。」
「え…あるんですか?」
「一週間は困らねぇぐらい洋服もおいてあるぞ。」
あなたを一番愛していたときの私に出会えるのかな。
「だから お泊まりOKだから。」
「へ…?ってもう!」
一日でも早くあのときの二人に戻りたい
誰か…戻してください