赤い糸
第10章 壁
「ゴメン!待った?」
淡いピンク色のスプリングコートを羽織った璃子は改札口の前で俯き目を瞑って待っていた。
「いえ…私が少し早く来すぎてしまって…」
ミディアムロングの髪の毛を耳にかけてなんとなく恥ずかしそうに視線を合わせない璃子の手を
「行こうか。」
いつものように掬い上げ
「は、はぃ…」
指を絡める。
「とりあえずスーパー寄るか。」
いつもより大きめのバックを肩から下げる璃子の手をゆっくり引いてこの道を歩くのは半年振り。
毎週のように俺の家に来てお互いの時間を共有してた。
違うか…アイツはだらしない俺の世話をしに来てくれてたんだっけ
「あの…お昼は食べました?」
もし…もしだ。
「まだ。」
「じゃあ、お昼ご飯も作ってもいいですか?」
今日 俺の家に来たことによって何かひとつでも思い出してくれればそれはそれで御の字なんだけど
「あの…甘口ですか?辛口ですか?」
「璃子に任せるよ。」
あまり期待はしないでおこうと思う。
でもな おまえは気付いてないみたいだけど
「そういえばビールねぇんだ。」
「あっ、コレ安くなってますよ。」
その手に取ってるビールはまさしく俺がいつも選ぶ銘柄で
「じゃあそれにすっか。」
細胞レベルで俺のことを忘れてはいないんだと頬を緩ませる。
だから 俺も
「ほれ。」
「いいんですか?」
「いいんですよ。」
璃子の大好きな抹茶アイスをカゴに入れてやる。
少しずつ…少しずつ思い出してくれればいいんだけど…
やっぱりこの笑顔は手放したくはない。
アメリカはさすがに遠いいよな…
だって コイツがいないと俺は本当にダメで
「私も持ちます!」
「いいから。」
「でも…」
「じゃ、俺の手を掴んでて。」
「…。」
そうやって俺を捕まえていてほしくて…
「左のポッケに…それそれ。」
「これ…ですか?」
「そう、そのハートのキーホルダーのヤツで。」
入院中に璃子のお母さんから返されたカギを小さな手に握らせる。
「それは璃子のカギだから。」
嬉しそうに、恥ずかしそうに頬を染める璃子が
…カチャ
この家に帰って来た。
「さ、どうぞ。」
「おじゃましまぁす…あっ!」
おまえの優れた細胞に
「京介さん!こんなにYシャツ溜めたらダメですよ!」
マジで感謝します。