貴女は私のお人形
第1章 あの人はあたしの神様で、
朝露に濡れた空気を縫って、少女達が幽境をかき分けてゆく。
黎明の群青の降りた森は、いやらしい、悋嗇で蒙昧な概念を盲信している人種の干渉を知るまい沈黙に潜んでいる。
無音を断つのは、二つの足音と、どこかでさえずる鳥や蝉の声。それから湿気た土と草、剥がれた樹皮のこすれる音に、けだし固く手を繋いだ少女達の心音だけだ。
独特の青臭さにほのめく蠱惑的な芳香は、今しがた見かけたムスクか、睦まやかな少女らの醸す共鳴か。
さくさく……………
ともすれば名もなき草木を鳴らして、枝葉に足をとられないよう気を付けながら、少女達は前へ前へと足を進める。
二人の間に言葉はなかった。
指から指へ、皮膚と皮膚の僅かな釁隙のしとりが伝える体温だけが、何にも代え難い真実らしい。
開けた土地が、俗世を逃れた少女達を迎えた。
鏡のような水面の沼が、なめらかな艶を浮かべていた。
「噂の通り……白い花ばかり咲くのね、ここは」
姫白根に浜茄子、小はこべ、レースフラワーにひよどり花。
その色彩は、まるで夏の雪山だ。
うっとりと呟いた少女の肌は、白い花の楽園に似合う、いっそ悲劇性を伴う色素をしていた。その髪は長く、するりと指を通すようで、黒檀のごとく深い黒だ。華奢な身体を飾ったワンピースも、白より黒が多くを占める。
「君が一番綺麗な花だ……何より綺麗で誰より大事な、私の花」
もう一方の少女の腕が、逆さにした奢侈なパラソルを彷彿とするスカートをまとった少女の腰にまといついた。
黒と白で構成された少女と違って、彼女はまばゆいばかりの金髪だ。肌だけは、ワンピースを着た少女に通じる。しおらしい少女とは対照的に、群青のカットソーと深紅のボトムも補翼して、少年のような風貌だ。
さながら姫と騎士のような少女らは、新緑のパラソルの木陰に腰を下ろした。
黒髪の少女が腕にかけていたバスケットから、瓶が二つ、現れた。