貴女は私のお人形
第5章 きっとそれはあたしも同じで、
『何かあった?』
テーブル越しに、純は彼女の手に手を重ねた。
『ちょっと、あの子、格好良すぎない?』
『皇子様とお姫様みたーい』
どこからか野次が聞こえた。
気にしなかった。
純の、フランス人形を天使に模した恋人は、いつも可憐で奢侈なドレスに身を包んでいた。彼女曰く、決して少女趣味なのではなく、幼い頃ドールになりたかった名残りらしい。
一方、純も、さながら彼女を護る騎士の装束、ともすれば豪奢な少年の装いにも見える、いわゆるパンクスタイルを好んでいた。
その所為か、二人はどこを歩いても、やたらと人目を引いていた。
他人の視線は好まない。一方で、気に留めるだけの価値もなかった。
『あのね、純──』
彼女を、世界よりも命よりも大切だった。
もはや半身と言っても足りないほど愛おしくて仕方のない彼女から、それこそ世界の終焉を見るより残酷な未来を突きつけられることになろうとは、どうして、純に予測出来たろう。
暗い夜道を歩いていると、思い出したくもない来し方が純を襲う。
ここに来てからというもの、特に酷い。否、街にいても同じことが言えたから、原因は、つまるところ純自身にあるのだろう。
特に今夜は、文月乙愛と約束を控えている。
純にとっての乙愛とは、出来れば関わりたくなかった少女だ。
それと同時に、その姿を見かけては、思わず目で追っていた。顔を合わせては、言葉を交わしたくなる。