貴女は私のお人形
第5章 きっとそれはあたしも同じで、
「そうだわ。お姉様」
「何」
「予約、ね。七時四十五分になった」
「え?!」
「八時だと難しいんですって。申し訳ないわ」
「乙愛は?」
「乙愛さんは、お姉様の信者よ。三十分前には着いてるでしょう」
そうとは限らない、と、純は思う。
乙愛の人となりをどれだけ知っているか、そこのところの自信のほどは無に等しい。されど、少なくともいくら好意を寄せてくれているからと言って、彼女が三十分も前から待機しているとは考え難い。
壁時計は、午後七時二十分過ぎを示していた。
「澄花、メイクか服、どっちを直せば良いと思う?」
「手遅れでしょう」
「乙愛に見られたらどうするの?!」
「乙愛さんなら、そのままでも嬉しがってよ」
「他の参加者に見られたら?!」
「神無月純だって気が付かない」
澄花が、ソファを立った。
一歩、二歩と、姉妹の物理的距離が狭まる。
綺麗な目許をしているのに、黒縁眼鏡で台無しだ。純が勧めても、この澄花は頑なに拒む。綺麗で艶やかな長い髪は、今日も隙のない三つ編み。純がふざけてほどこうものなら、彼女は洋服でも乱されたかのごとく目くじらを立てる。
これだけ美しいのに、何故、彼女はその魅力を隠すのだ。
「お姉様」
澄花の両手が、純の長い金髪に触れた。
「ウィッグ、外してしまえば?」
「…………」
「そうしたら、お洋服もメイクも合うわ」
澄花の盲目的な眼差しが、熱い。
純は目の遣り場を失って、テレビの向こうに意識を逃す。
若草色の小花柄のカーテンが、黒い窓ガラスを覗かせていた。
夜陰を閉ざした姿見の中で、質素で地味な身なりの女と──…今時の日本に相応しからぬ、社交家な青年貴族を聯想する、飛び抜けて華やかな身なりの女が対峙していた。