貴女は私のお人形
第7章 きっとそれは満たされたこと
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声を聞くだけで切なくなる、目を合わせるだけで恥ずかしくなる。その肉体が人間であることすら不思議な純に、昨夜、乙愛は抱かれた。泣きたくなるほど愛おしい想いが乙愛を満たした。とても甘いキスを交わした。
純の体温が乙愛のそれととけあって、彼女の手が、唇が、乙愛の隅々を花開かせた。深い、深い場所まで愛した。
あれは、現実だったのか?
朝ぼらけの空が若草色のカーテンに覗いていた。
こんな夜明けを迎えられるのは、今日と、明日で最後だ。
乙愛と純の関係も、明日で、終わるのだろうか?
乙愛は寝室に引き返す。
さしずめ絵本のワンシーンを気取った室内の一角、かけ布団を被っているのは、まばゆいばかりの金髪の天使だ。彼女の寝顔は、乙愛の位置からは見えない。
あれから昨夜、乙愛は純と売店へ行った。夜食を買って部屋に戻って、さばかり遅い夕飯をとった。それから二人でシャワーを浴びて、紅茶を片手にはかなしごとを楽しんだ。
同じベッドに入って、最初は純が、乙愛を抱き締めていた。さすがに汗ばんでくると、距離をとって指を絡めた。
夢のような現実を離れてまで誰もいない夢の中に行くのが寂しくて、乙愛は純にキスをねだった。
いつの間にか眠りに就いて、半端な時間に目が覚めたのがついさっきである。
何故、こうにも純を愛しているのだ。
自問するだけ馬鹿げている。頭で理由を並べられるような理性で愛したのではないからだ。
奇跡の歌声に、惹かれた。天使の姿に恋をした。
純粋で、哀情ほのめく魂が、乙愛を惹いた。
しかし、結局、それらは些細なきっかけだった。純が純であることが、乙愛には意味のあることだった。