貴女は私のお人形
第8章 だから世界の色が消えても、
「だってね、幸せそうだった二人に、死ぬ理由なんてあったのかな」
妖精のまやかしが、彼女らを惑わしたのではないか。
あずななら、恋人との円満な旅行中、いくら愛する女が誘ったとしても、心中に同意したりしない。愛していればこそ、尚更、どこまでも一緒に生きたいと願う。
「野原兄妹も、馬鹿みたいに仲良かったよね。実家に帰ったっていうのは──」
「お父様に呼ばれた。乙愛ちゃんはそう聞かされていたらしいけれど、すずめちゃんがいなくなったのは、夜だったわね」
すずめとリュウの父親は、おそらく今も海の向こうにいる。
「澄花さんも……。神無月さんを一人残して、帰るような人、かな」
澄花は純を慕っている。仕事のパートナーとしてだけではなく、姉として、彼女をかけがえなく思っている。
どれだけの事情があっても、澄花は、純を最優先する。
「野原リュウも、すずめちゃんも、澄花さんも、いなくなる理由はなかった。帰宅した証拠もない」
奇妙なほど、辺りが静かだ。
今夜はいつになく冷える。
「コテージ戻ろっか。ちょっと寒くなってきちゃった」
「あずな、神無月さんに会うの?」
薄暗い空の下、里沙の顔だけはっきり見える。
それだけ近くにいるからか、あずなの目が、彼女を求めているからか。