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貴女は私のお人形

第8章 だから世界の色が消えても、



「会うよぉ。乙愛ちゃんには悪いけど、もしカメラマンさんが野郎だったら、一対一なんていや」

「私も、付いて行ってはダメ?」

「え……」


 里沙の眼差しが、射るようにあずなに別の選択肢を許すまいとしていた。涼しげな目許に凛と映える、優しく純粋な黒い瞳が、あずなの意思を揺るがせる。


 そんな風に見澄ましては、里沙を拒めなくなってしまう。

 あずなは、小川に目路を逃した。


「次は、私かも」

「どういう……」

「幸せ者ほど、妖精に狙われやすいんじゃないかな」

「──……」

「里沙が心配なんてしてくれたら、私は幸せになっちゃうもん」


 笑えない冗談か。

 自分でも、何が言いたいのか分からない。


「もし、私が妖精にさらわれても……迎えに来ちゃ、ダメだよ」

「さらわれるはずないじゃない」

「ううん、心配。里沙は私を、二度も迎えに来てくれたもん」


 思い返せば、その一度目が、あずなと里沙との出逢いだった。初めての晩餐へ向かう途中、見事に迷ったあずなを彼女は迎えに来た。二度目は、二日目のオリエンテーリングでのことだ。純とはぐれて心細くしていたあずなを、里沙は見付け出した。

  
「だからね、里沙」

「大丈夫」

「……っ」


 優しい体温(おんど)があずなの右手を捕らえて包んだ。


「大丈夫。……こうして手を繋いでいれば、はぐれないから」

「──……」

 指と指との間に、里沙のそれが割り込む。

 二人の手が、いわゆる恋人繋ぎになった。


「あずなは、大丈夫」

「もう、行くね」


 繋いだ手を、里沙に離して欲しくない。

 本当は。…………


「まだ時間」

「お願い。……ちょっと、一人になりたいんだ」


 大好きな里沙に、こんな態度をとりたくない。
 だのに彼女に素っ気なくしてしまえるのは、あずなもここの力に支配されつつあるからか。


「何かあったら、電話して」

「──……」

「いつでも出るから」


 あれだけひしと連結したはずの二つの手が、今はまるで他人同然、別個になった。


 人間、やはり一つになれない。

 妖精であれば、それも可能だったのか。

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