貴女は私のお人形
第8章 だから世界の色が消えても、
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約束の時間よりも幾分早く、所定のコテージのチャイムを鳴らした。
連絡も入れないでフライングした非礼者を、純は無下にしなかった。扉を開けてあずなを迎えた彼女の姿が、世間一般の認識している「神無月純」という人物とはかけ離れていたのはともかく。
「へっ……?」
その美女を目交いにした瞬間、あずなはコテージを誤ったかと思った。或いは純に、澄花の他に姉妹がいたか。
憂いを帯びた、おおらかとも無機的ともつかない面差しは変わらない。大多数の女子達が骨抜きになるという端正とれた容姿も健在、見目麗しい。シャープなアーモンドを彷彿とする目許に、思慮深げで優しい眼差し──…あずなから見れば里沙には劣るが、こうも非現実的なまでに玲瓏なのは、確かに純だ。
ただし、その出で立ちはゴシックパンク。しかも純白ではなくモノトーンである。
「そんなに驚く?」
ハート型の踏み石を渡って、あずなは軒先に足を止めた。純に促されるまま、おそらくどこも同じの玄関の敷居を跨ぐ。靴箱に並んだ見覚えのあるコルボックルの置物が、からかうようにあずなを迎えた。
「驚く?って、訊かれても……」
驚くに決まっている。おまけにトレードマークの長い髪は、どこへ消えたのだ。
あずなの動揺にはとりあわないで、純は客間へ入っていった。
若草色のカーテンが、不気味な闇を遮断していた。同系色で小花柄のカバーがかかったソファは、やはりあずなや里沙のコテージ同様、座り心地が好い。テレビもあった。音声が恋しくなれば、いつでもボタン一つで音が出せる。
それでも凄寥とした部屋は、無音の域を超えていた。
暗く、寂しい。
澄花がいないからか。
あずなも里沙と行き来していなければ、初日のように、今でもがらんどうな部屋を持て余していたか。