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貴女は私のお人形

第8章 だから世界の色が消えても、






 思い起こせば、ドクイチゴが軌道に乗ってきたのもあの頃からだ。

 無名の作家が、それだけならまだしも専門学校で知識やスキルを得たわけでもない一個人の立ち上げた個人製作ブランドが、いきなり信頼を得るはずない。服飾雑貨や洋服のアイデアは絶えない。部活動での経験も、あずなの腕を確かに成長させていた。せめて首都圏にでも住んでいれば販売イベントにも出られたろうが、片田舎ではウェブページで通信販売をやる以外に方法はない。かたちばかりはハンドメイド作家を名乗りながらも、実際は、商店街のアクセサリーショップでアルバイトをしながら休日を製作にあてがうだけの日々だった。在庫は増える一方で、それでも、他に志すものがなかった。他に志すものがない以上、やめてしまえば生きているための理由をなくす。ある意味生真面目な理屈があずなを意固地にさせていた。


「それにしても、お客さん来なかったんです。ただ一人も。これって駆け出し中の、無名の通信販売作家としても珍しい。そこで考えました。私の好きな路線って、よほど知られなければスルーされるのかも知れないって。力試しというか、宣伝というか、とりわけ受け入れられやすい、オーソドックスなロリィタさんの路線を始めました。そして翌年、一人の女の子からメールをもらいました」

「もしかして」

「名前は、文月乙愛ちゃん」


 乙愛がショッピングカートに入れたのは、リボンの形のボタンが並んだ、ケミカルレースがふんだんに使ってあるブラウスと、同じくケミカルレースをふんだんに使ったワンピースだった。パフスリーブのワンピースだったから、ブラウスを合わせて着回してくれていたのだろう。それから楕円のヘッドドレスとレースの付いたハイソックス。乙愛は、ことごとく何の変哲もないアイテムばかりを購入した。全て白一色で作ったものだった。

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