貴女は私のお人形
第5章 きっとそれはあたしも同じで、
「すず姫が、いないんです!!」
「え……」
「さっき本館の前で別れて、私、一足遅れて戻りましたの。すず姫、体調悪そうだったので、リュウさんもいませんし……っ」
別れ際、すずめの様子がおかしかった。
明日帰省するかも知れない彼女に、父親への手紙を預かった。
コテージの明かりは消えており、携帯電話にダイヤルしても、すずめは電話に出なかった。
「乙愛ちゃん」
あずなの手が、乙愛の肩を労った。
「すずめちゃん、体調悪いんだよね?」
「はい……」
「コテージで眠っているんじゃないかな」
「え」
「安静にしなくちゃいけなくて、呼び鈴や電話に出られないって、考えられない?」
乙愛が考えつかなかった可能性だ。
すずめの安否をこの目で確かめたかったあまり、乙愛は、些か悪い予感ばかりに囚われていた。
「そうかも、知れません」
けだし過敏になっていた。
リュウがいなくなって、すずめまで『乙女の避暑』を去るかも知れない話を今朝いきなり耳にして、挙げ句、さっきの顔色を見たからだ。
不思議なものだ。
たった一人ですずめを探していた時は、あんなに不安だったのに、乙愛は今、ほっとしている。
「ねぇ乙愛ちゃん」
あずなが口調を明るくした。心なしか楽しげだ。
「ちょっと、今から部屋に来ない?」
「えっ……」
「乙愛ちゃんに見せたいものがあるの」
純との約束の時間までに、着替える時間がなくなる。
だのに、何故か乙愛は誘いを退いてはいけない気がした。