貴女は私のお人形
第5章 きっとそれはあたしも同じで、
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ひと仕事済ませて、安堵と焦燥に駆られながら帰路を終えた乙愛の前に、すずめは再び現れなかった。睦まやかな兄妹の残影が今でも乙愛の目蓋を焦がす、寂しげなその軒先に、呼び鈴に応える者は出なかったのだ。
「よっ、幸せ者!」
「こんばんは。あずなさん」
引き返した乙愛の目先にあずながいた。
ここ二、三日、里沙と一緒にいることが当然になっていた彼女。それだけに、乙愛にどことなく違和感が疼く。が、すずめとリュウとて付きっきりではなかった。
「どうなさったんですの?こんなところで」
「別に?散歩」
その口振りは素っ気ない。
「乙愛ちゃんこそ、どうしたの?純様との待ち合わせ、一時間後なのに、そんな格好で良いの?」
「…………」
すずめの所為だ。
あずなと同様、乙愛も昼間と同じ装いに身を包んでいる。こんな過失は、すずめの。…………
「乙愛ちゃん?」
眉を下げたあずなの顔が、今しがたとは打って変わって、恤愛ほのめく眼差しを連れて乙愛を覗く。
黒天鵞絨に浮かんだ月を背負って、白いリネンの造花のブーケを髪に飾ったあずなは、さながら野原の妖精だ。
あずなの優しさに、乙愛は、今だけ縋って良いだろうか。