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オオカミは淫らな仔羊に欲情す

第14章 大好きなのに……


  ―― 数十分後

  竜二が運転する車は新大久保の絢音のアパートへ
  無事到着した。

  しかし、絢音は未だご機嫌ナナメで……
  小声でぶつくさ文句を言う。


「って、ホントにアパートなわけ? 信じらんなぁーい
 今日はバレンタイン、なのに……」

「ん? どしたー?」

「……何でもない。おやすみ」


  急にぐぐっと涙がこみ上げてきて、
  それを悟らせまいと、車外へ出て足早にアパートの
  階段を駆け上がる。


  車内に残った竜二は、しばらく絢音の後ろ姿を
  目で追い、何やらとても複雑な表情。


  自分の部屋の玄関に着いた絢音だが、その場に
  立ち尽くし中へ入ろうとしない事に、”??”と
  眉をひそめ、自分も車外へ出て絢音の元へ急いだ。


  カツ カツ カツ カツ ――

  足早に鉄階段を上がってきた竜二を見て絢音は、
  慌てて涙を拭った。


「な、何よー」

「いや、気分でも悪くなったのか、と思って……」


  絢音は何やら口の中でゴニョゴニョと呟くように
  言ったが、竜二には聞き取る事が出来なかった。


「あー? 何だって?」

「だーかーらー……(急に気弱そうな小声に)部屋の
 カギ、落としたみたい……」

「!!――」

「もうっ、自分で何とかするから、センセは帰って
 いいよ」

「もう夜中の12時だぞ。こんな時間に何とかなる
 のか?」

「なんなかったら、利沙の家にでも行くし」

「ふ~ん、バレンタインの夜に彼氏持ちの友達ん
 家(ち)へ転がり込む、か?」

「私がどうなろうがセンセにはカンケーないでしょ」


  と、絢音は竜二の脇をすり抜け階段へ行こうと
  するが、竜二は絢音の腕を掴んだ。

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