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オオカミは淫らな仔羊に欲情す

第3章 導入部・その①

  世の中がいよいよ夏の行楽シーズン到来だなどと
  うわっついていても、うちら受験生には関係ない。

  刻一刻と迫る大学入試を控え、クラスメイトも
  余裕なく毎日を過ごしているようだ。

  今日まで何度となく提出してきた進路希望票――、
  絢音はようやく担任始め他の先生方からも
  薦められていた国立星蘭大学へ進学する事を
  7割り方決めた。
  
  本当は、うちの家計を第1に考え、
  地元の優良企業に就職する気でいたのだ。
  
  けど、もし2学期の統一模試で学内ベスト3位
  までに入ったら、星蘭大への特別推薦枠を
  自分の為に空けてくれると、校長と教頭が揃って
  確約してくれたので、チャレンジする事にした。
  
  学校の幹部達にしてみれば、次期新入生をなるべく
  多く獲得する為、
  たとえ貴重な推薦枠を犠牲にするとしても
  ”国立大に現役で合格した生徒を輩出した学校”
  という実績が欲しいのだ。

  それがたとえ、底辺高校の悪あがきだと言われ
  ようと……。
  
  
  毎日が勉強漬けのそんなある日 ――、
  いつも通りに補習授業で登校しフラリと
  眩暈を覚えた絢音は、菊栄に支えられて
  保健室へと運ばれた。

  養護の教諭に疲れによる貧血ではないか?
  と言われ、今の時期は多かれ少なかれ
  どこか体の不調を訴える生徒が多いから、
  体調管理には十分気を付けるようにと
  指示を受ける。

  そのままベッドで休んで行くように言われ
  横になった絢音は、保健室の白い天井を見上げ
  ハタと思いつく。


  ―――― 生理が、来てない。

  ドクン、と心臓が脈を打つ。

  高校受験の時もそうだったから、特には
  気にしていなかった。
  何か強いストレスがあると、生理不順に
  なる事がままあった。

  けれど……、それにしても遅れている。

  8月も半ばを過ぎた頃から自覚していた
  気分の悪さには、波があるものの
  あれからずっと続いていたし体重も落ちていた。
  体のだるさは、日々ある。

  まさか……

  ぐるぐると頭の中が混乱する。
  関節が白くなるほど握りしめた手が、震えた。

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