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オオカミは淫らな仔羊に欲情す

第3章 導入部・その①

  これからどうするべきなのか。

  あれこれ考え出したその中に、
  不思議と”出産”と言う選択肢は1度も
  浮かばなかった。

  ”まさか妊娠?!”と、疑いを持った7月の
  終わり頃から、何かと忙しない日々が続き。

  会えないならせめて電話で声くらいは聞きたいと、
  裕の携帯電話のプライベートナンバーに
  コールしてもいつも留守電で。

  遂にたまりかねて、ステイ先のアパートに電話を
  かけたら、若い女の子が出た。
  
  その子から『裕は今シャワーしてる』と言われ、
  『そのまま待つか?』と、訊ねられ、『待つ』と
  返事をしたら、受話器を置いてその子も
  シャワーへ行ったらしく、しばらくして電話の
  向こうから、今電話に出た女の子と裕が
  バスルームでじゃれ合っている声が聞こえてきて、
  慌てて受話器を置いた。
  

  留学先に旅立ちまだたったの*週間だ ――!

  その、*週間であいつは……。


  進学や就職などで疎遠になって、あっという間に
  新しい彼女を作られた ―― なんて、
  話しを聞く度、自分はそんな目に遭ったりしないと
  言い聞かせていたから。
  
  裏切られて悔しい、という思いより、
  そんな男に夢中になっていた自分が
  情けなくって、その不甲斐なさに涙が溢れた。
      

  絢音は焦りと不安で頭がどうにかなりそうでも。

  頭の片隅では、いかにこのお腹の子を
  誰にも気付かれないよう処置するか?

  それにはどうしたら良いのかと、
  そればかりを考えている自分もいた。



   ”――まじめなお付き合いでも、
   そうゆう事が絡むとややこしい事になりがち
   だから。絢が彼氏の事をホントに大好きで、
   抱かれたいって思ってたとしても、
   体で結ばれるのはまだまだ先でもいいと、
   私は思うよ ―― ”


  今になって、あの時姉に言われた言葉の本当の
  意味が身に滲(し)みて分かった。


  ”――自分のした事にちゃんと最後まで
   責任が持てるならいいけど、まだ高校生の絢に
   それがちゃんと出来るとは言い切れない
   でしょ?”


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