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オオカミは淫らな仔羊に欲情す

第7章 鮫島竜二、という男

  私は駆け足で駅に向かった。

  角を曲がると、駅が見えた!
  あぁ、後もう少しだ!あと ――

  突然、私の行く手を阻むように黒い車が歩道に
  乗り上げた!

  メタリックブラックのベンツ? まさか……

  あ ―― やっぱりダサ島!

  あ、降りてきた!追いかけてきたの??


  何か無表情。

  食事代でも請求に来たのかな?
  なら、なけなしのへそくりで払うしかない!

  少し後退さった私の前にダサ島が立ち、
  溜息をついて笑った。


「オレはよほどキミに警戒されているみたいだな」

「はい」


  ダサ島は突然私の腕を掴んで歩き出した!


「ちょっと! いきなり何よ?! 放してっ!」


  必死で抵抗するけど、力じゃ男に敵わない!!


「おとなしく乗れ」


  強い口調で言いながら運転席側の後部座席のドアを
  開けて無理矢理、私を押し込んだ!

  やばい! 東京湾に連れて行かれる!!!

  勢い良く押し込まれたせいで後部座席に
  投げ出された様な形になったが、すぐに体制を
  整えてドアノブに手をかけた。

  ―― が、いち早く運転席に座ったダサ島が
  ドアロックをかけた。


「送ると言っただろ? 大人の言うことはちゃんと
 聞くもんだよ? 学生さん?」


  笑いながら私を見た。


「……」


  仕方なく、無言で座席にもたれかかると、
  それを確認してダサ島が車を発進させた。


「新大久保、だったよね?」

「……はい」

「東京湾には連れて行かないから安心して?」

「え?」


  私はダサ島を見た。


「『私をどうするつもりだ』と顔に書いてある」

「……」


  その笑った顔が、妙にムカつく。


「オレは、人の出会いは一期一会だと考えてる。
 今朝キミに会ったのも、キミとオレが同じ学校だった
 のも全て偶然ではない。キミに焼肉を奢ったのもね」

「はぁ……」

「たとえ偶然だったにしても、そんな出会いこそ
 大切にしていかなきゃ勿体無いだろ?」

  また笑いながら、ダサ島はタバコに火をつけた。

  車は首都高に入り、私は久しぶりに見た首都高
  からの夜景を眺めていた。

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