
オオカミは淫らな仔羊に欲情す
第9章 季節はうつろう
昼休みが終わってすぐに始まった『騎馬戦』は、
全学年のクラス対抗っていうなんだかすごいものだ
どう考えたって下級生が不利だと思うけど、
そこらへんは毎年、容赦ないみたい。
体重が軽い女子という理由で、問答無用。
私は騎手にさせられた。
攻撃チームの指揮をとるのは学級委員の
チョ-さんで、まずはやはり、1年を狙おう
という話になっていた。
ピストル(スターター)の合図で、
一斉に一番近い1-Aめがけて走って行った。
各騎馬の騎手が被っているクラスごとに色違いの
体育帽を幾つ取れるかで、勝敗が決まる。
狙いをつけた1-Aのひと組の騎手へ手を
伸ばしかけた時 ――。
突然横っちょから腕をを引っ張られた。
懇親の力で思い切り引かれて、バランスを崩し
『あっ!』と思った瞬間、掴まっていた騎馬の
男子から手が離れて、後ろに倒れていく感覚に、
瞬間的に冷や汗がドッと出た。
うわっ!! 落ちる!
そう思って、頭を守ろうとした瞬間、
誰かに抱きかかえられていた。
「?!」
ゆっくり目を開けるとそこには、
はぁはぁ ――と息を切らせたダサ……鮫島先生
がいた。
先生は私を抱きかかえたまま歩くと、
人の群れから外れた場所に私を下ろした。
「ったく ―― あんま無茶をするな」
「あ……」
周りの歓声が、すごくヒトゴトみたいに、
聞こえてた。
「しばらくここで大人しくしてろよ」
そう言いながらすぐに競技に戻って行った
先生の足から、ダラダラ血が出てる。
「ちょっ!」
え? あいつ、なに? あの流血……。
もしかして、私を助けた時に?
痛くないの?!
早く手当をって言いに行こうとしたら、
事務の刑部さんが先生に声を掛けたのが見えた。
血が出てる足を、彼女が指さしてる。
「あ……」
その刑部さんが先生を引っ張って、
保健室の方に向かって行くのを、ただ、見送った。
