
オオカミは淫らな仔羊に欲情す
第10章 その時、2人は……
「わ~い ❤ あやちゃ~ん」
海斗はまだ保育園児ながら、
しっかり男の色香は今からあって、
絢音が大のお気に入りである。
その5才児海斗が、ひしっと
絢音へ抱きついた。
絢音も優しく抱きしめ返し。
「久しぶりぃ海斗くん。
また大っきくなったねぇ」
海斗の父である鮫島三兄弟の
次男・伸吾は、☓☓通信社の特派員で一昨年まで
香港に駐在していた。
「でしょ~う? だから海斗ね、もっと大っきく
なったらー、絢音ちゃんの事お嫁さんにして
あげるからね。 いいよね?」
”(ち)くっしょう、このクソガキ……”
いくら子供だからといっても、
人前でこれだけ大胆に堂々と愛しの絢音へ
抱きつかれて。
鮫島としては、甚だ面白く無い!
その不快感を露わにしている鮫島を見て、
教え子・めぐみは苦笑交じりに言った。
「妬かない、妬かない。相手は5才児でしょ~」
「つったってよぉ、こいつ、あの歳で男の色香ムンムン
じゃね?」
「それはリュウせんせの考えすぎ」
その一同の目前の天空で、ド~ンと大きな音がして
打ち上げ花火が夜空へパァ~ッと見事な大輪の華を
咲かせた。
花火はすぐに2発、3発目と次々に打ち上げられる
誰もが息を呑んでその美しさ、
壮大さに目を奪われる。
「うわぁ――すっごぉい……」
「香坂の奴、今年はまた随分と力(リキ)
入ってんなぁ」
毎年、港南台の科学教諭・香坂が地元・商工会の
花火師と共同で試作品を打ち上げるのだ。
「あの人なら、万一教師リストラされても花火で生活
には不自由しなさそうだね」
「ア。それ言えてるかも」
絢音は次々と打ち上げられる花火に言葉もなく
魅入られ。
鮫島は花火の残照に照らされ光り輝くように見える
絢音の横顔に見惚れる。
