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オオカミは淫らな仔羊に欲情す

第11章 ちょっとしたヤキモチ


「―― で、まさか朝までそこに突っ立っている
 つもりか?」


  竜二に促されるまま、
  図々しくも彼のマンションまで来てしまった。


  池谷や親戚の男性以外の部屋に入ったのは
  今日が初めてだった。

  上着を脱いでネクタイも緩めた竜二は、
  相変わらず玄関先の戸口で緊張した面持ちのまま
  突っ立っている絢音を見て。

  ため息混じりに苦笑を漏らし、
  玄関まで戻ってきて絢音の腕を掴んだ。


「こんなとこに突っ立ったままじゃ余計体が冷えちまう
 今、暖房入れるから、適当にそこいらで休んでろ。
 男所帯で散らかしてるけど」

「あ……お、お邪魔、します……」


  絢音はそう言うと、まるで電池の切れかかった
  ロボットが歩くみたいにぎこちない足取りで
  室内へ足を進めた。

  室内の間取りはコンパクトな1LDK。

  竜二は”男所帯で散らかしている”と、
  言っていたが。

  ここはもともと使われていない所だったのか?

  それとも、長い間留守にしていただけだったのか?

  少し室内の空気が淀んでいた以外は
  気になる所もなく。

  掃除だって隅々まで行き届いていて

   ”――散らかしている”なんて、とんでもない! 
  と、絢音は思った。

  空気清浄機とエアコンをオンにして、
  キッチンへ入っていった竜二が、

   
「もともとここは、うちの若衆の詰め所にするつもりで
 買ったんだ」


   ”若衆? って、じゃあ……学校で皆んなが
    噂してた《鮫島竜二・ヤクザ説》は、あながち
    的外れでもなかったの?”

   ”それにヤクザさんって、自宅以外にこんな
    マンションが持てるなんて、意外と儲かるんだぁ
    ……私なんて、アパートの家賃払っていく
    だけで、毎月いっぱいいっぱいなのに”


  ついつい発想が超庶民的になってしまう絢音。

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