幸せの記憶
第1章 ☆幸せの記憶
「美緒ちゃん、センセーいたでしょう?」
「山川さん。ハイっ、先生はこちらで寛いでらしてました」
「斉ちゃんのことだから、書道教室の日は自宅にいるはずだもの。不用心にも玄関の鍵も開いてたしね」
―――まったく、山川さんには敵わないな。
祖父の代から教室に通ってきている山川さんは、家族ぐるみの付き合いで、第二の祖母のようなもので。僕の子ども時代から知っている彼女には僕は頭が上がらない。
山川さんは、教室の日はいつも早めにやって来ては、準備を手伝ってくれていた。
彼女無しでは、教室を滞りなくやっていくのは難しいほどお世話になっているのだ。
「美緒ちゃんがそうしていると、何だかみっちゃんの若い頃を思い出しちゃうわ。
みっちゃんと先代の先生は幼馴染みのおしどり夫婦で、いつもこの縁側で寛いでいたもの。あなた達二人お似合いよ。
あら、懐かしい風鈴。それは書道教室のみんなで旅行に行った時のガラス工房の手作り体験で、みっちゃんが作ったものだわ」
山川さんの口から飛び出た祖母の名前に思わずたじろいだ。
美緒さんと僕がお似合いだなんて―――美緒さんに失礼だと思った。僕たちは年齢が違いすぎる。
なんてたって僕と美緒さんは一回りも年齢が違うのだ。