幸せの記憶
第1章 ☆幸せの記憶
「センセ、起こしちゃいましたか。
ふふ、凄く幸せそうな寝顔でしたけど、どんな夢をみていたんです?」
「……あぁ、美緒さん。って、なんで美緒さんがここに?」
「あそこ……、開いてましたから」
目にした女性は祖母ではなく、書道教室の一般部の生徒さんである美緒さんだった。
何故ここにいるのか―――その僕の問いに、美緒さんは、玄関と庭を繋いでいる木製の扉を指さし、ふんわりと微笑む。
その姿は在りし日の祖母の笑顔に似ていて、何だかきゅうっと胸が締め付けられるのと同時に、凄く幸せな気分になった。
そこに美緒さんがいるのが、至極当たり前でシックリとくる……そんな気持ちになったのだ。
「廊下に風鈴が転がっていたので、勝手に吊り下げちゃいましたけど……ご迷惑でしたか?」
「あぁ、ありがとうございます。下げようと思っていたのに忘れていました。今日は美緒さんいらっしゃるのが随分早いですね」
「えぇ、会社が半日だったので、たまには準備をお手伝いしようかな、と思いまして。山川さんも一緒ですよ」