幸せの欠片
第8章 小さな嘘
「家?…じゃあ相葉さんが先に降りるようだね」
ごく当たり前の返事をした筈なのに、相葉さんは妙に困ったような顔をした
「…うちに、泊まってって誘ってるんだけど」
「え…」
さすがに “泊まり“ が何を意味するのか位は分かる
ついでに言えばそれを恥ずかしがるような歳でもない
キスはとっくにしてるんだ
例え同性同士でも、その先があるのは自然な事だとは思う
「でも、俺着替えとか何も…」
「洗濯してる間、俺のを貸すよ。乾かなくても帰りは車で送るし」
そう言われてしまえば断る理由は見つからない
「それなら…」
俺が頷くや否や、相葉さんは “タクシー拾ってくる“ と傘を差して大通りに向かって行った
その素早い行動が何だかおかしくて
“俺も行くよ“
相葉さんに聞こえるように大きな声を出して、俺も雨の中を走り出した
すぐに追い付いて、並んで歩く
横断歩道の信号が青になり、歩き出した時
スリップしたタイヤの軋む音が耳に飛び込んで来た
「…っ!」
その瞬間、頭の中によぎる映像に身体が動かなくなった
けたたましいブレーキ音と何かにぶつかる衝撃音
あの日の記憶が蘇える