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蜉蝣の羽化

第1章 悪い人たち

2年になっても相変わらず私は変わらなかった…いや。寧ろ悪化の一途を辿ったと言っても過言ではない。

現実逃避から薬に手を出しその頃には既に自殺念慮が出始めていた。
怠惰に過ごす中、その頃1番仲の良かったコーキから電話があった。
「…なあ、俺はもう無理だ。死のうと思うから睡眠薬を分けてくれないか?」と…
その頃の私の人生哲学では「自然淘汰だ。生きていることに向いてない奴もいる。本人の望みが其れならば応援しなくてはいけない」だった。

だから部屋中からありったけの睡眠薬、精神安定剤を掻き集めて渡してやった。彼は困ったような嬉しいような複雑な表情で微笑んだ。
その時に何を思っていたのか、微笑んだ意図は今となっては分からない。

彼が自殺に成功したことを知るのは其れから1ヶ月以上経ってからだった…

私と仲間はそうやって集めた薬をネットで売っていた。長く続かないことは分かっていたが、高校を出れば一人暮らしをする。そのつもりでのバイト感覚。
罪には罰が与えられるということを分かってはいたが理解はしていなかった。

コーキと最後に話した2日後に、例の如く学校をサボっていると母親から電話があった。
酷く慌てた様子で「あなた、何かしたの!?警察の方が今から家宅捜索に向かうって…取り敢えず帰ってきなさい」と…
来るべき時が来たと思った……
一足先に家に帰り、ベランダから飛び降りるか頚動脈を切るかで悩み、マンションの6階のベランダの手摺の上に立とうとした時急な衝撃を受けて後ろに倒れこんだ。

警察が到着したのである。
ドアが開く音も呼び掛けられる声も全く耳に入らず、静かだった。孤独を感じさせられるほどに静かだった……身体に鈍い痛みを感じてやっと自分の置かれている状況が理解できた。

死に損なったのだ…

チッ、と舌打ちしまだ若い警察官を睨み付け、うやうやしく取り出された家宅捜索令状を見せられた。
どうでも良かった。部屋を暴かれることも、親が泣いていることも、県内の警察ではなく県外の、其れもだいぶ遠いところから来ている、という事に少し笑ったけれど……

証拠品を指差して写真を撮る。
何に使うのかひとつひとつ説明をする。
部屋を荒らされながらまるで自分とは無関係のようにその光景を見ていた。

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