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蜉蝣の羽化

第1章 悪い人たち

夏の暑い日、例の如く学校をサボって家でとろとろと薬に溺れていた時、ケータイがけたたましく鳴った。
母親からだった。珍しいと思い、それと、嫌な予感がして電話に出た。
「あなた、何をしたの?警察から電話があって今から家宅捜索に行くって言われたけど……心当たりあるの?」と。
その頃、家出をする為貰った向精神薬をせっせと売っていたからそれだと思った。前日ももう、死にたいんだ。薬を分けてくれないか?と言われた私はあげられるだけあげた。

ベランダの下はコンクリート、実家は3階建て、頭から落ちれれば死ねるだろうと思ってた。
一瞬の躊躇ののち柵をまたいだところで、背後から腰を引き寄せられ鈍い衝撃を受けた。

其処からはあまり覚えていない。
あらゆる証拠品に指を指し写真を撮られた。
その間に来ていたパーカーの左腕は傷が裂けじわじわと血が滲み始めた。
その日はそれだけで其奴らは帰っていった。

その後、久し振りに揃った親に問い詰められた。
俺は…その時付き合っていた彼女が住んで居る土地に行きたくて適当に嘘をついた。
ただ家を出たかったというのもあるが…
ケータイは没収された。

1ヶ月後に事情聴取があると。
彼女とは毎日手紙でやり取りをした。

事情聴取は県外の県警が来ていたので此方からそっちに向かわなければならなかった。
私のことを無知だと思って居るらしく一々何をしたら犯罪になるのかご丁寧に説明してくれながら、俺に対して罪悪感を植え付けようとした。

そんなものはなかった。私はもう、行きながらに死んでいたから。
ただ…うん、うん、と、頷いていた。子供のように俯いて。

供述に間違いが無いか二日に渡って繰り返し同じ事を聞かれた。ウンザリしていた。

最後に指紋を取られ、良くあるパネルを持たされて写真を撮るという映画のようなことをしてやっと、その地を離れることができた。

判決は2ヶ月ほどで出るらしい。
ケータイは返して貰えたから、親友に電話した。

そうしたら姉と名乗る女が出て「弟は死にました…」と。

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