好きって言わない!
第32章 青春アクセル。
S side
「準備はすでに整っております。」
部屋の隅に置かれたキャリーケースと、プレゼントがたくさん詰まったボストンバッグ。
主人と似ても似つかぬブサイクな猫は、使用人たちからとても可愛がられていたようだ。
別れを惜しみながら次々にブーコへとプレゼントが集まり、あっという間にバッグはパンパンになった。
「寂しくなりますねぇ。」
俺の元家庭教師であるこの使用人も、ブーコを撫でながらため息をついた。
S「共感はできないな・・・
面倒を見る必要が無くなって、仕事も減るんだ。
良いじゃないか。」
「面倒を見てあげるのが楽しいんです。」
S「ふーん・・・」
全く共感できない俺はもうこの話に興味を持てず、読みかけの小説に手を伸ばす。
「ミーコちゃん、たまには遊びに来て下さいね?」
猫と会話をするというこれまた俺の理解し難い状況。
もう来なくて良い。
猫は嫌いだ。
「ご主人様と一緒にね♡」
S「・・・・・。」
そうだ、ブーコが来るという事は、あいつも一緒に来るという事だ。
逆を言えば、ブーコが来なければあいつは来ないのか・・・
思えば俺が出向いてばかりで、あいつがウチに来た事なんか無い。
今日初めて来るんだ。
俺の事が好きなくせに、行動力の無い奴だ。
「坊っちゃま、松本様がおみえになりました。」
S「通してくれ。」
約束の時間ピッタリにやってきた潤。
相変わらずの仏頂面で使用人に連れられてきた。
S「ようこそ。」
にっこり笑ってやると、さらに顔を顰める。
M「お前な、こんな大豪邸に住んでんなら事前に言っとけ!
絶対数足んねぇだろ!」
S「ん?」
ズイッと押し付けられた紙袋には、有名店の洋菓子が入っていた。
S「買ってきてくれたのか。」
M「一応、世話になったからな。
でも・・・従業員が何人いるか知らねぇけど、」
S「あははっ!」
M「?」
潤の言葉を遮って、思わず笑ってしまう。
使用人も含めた全員に渡すつもりだったのか。