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昭和回想録

第3章 誰よりも・・・。






俺は半ば強引に優子を連れて部屋を出た。

でも不安を感じないよう、ずっと手をつないだままだ。

そう。

恋人同士みたいに。

銭湯には自転車で二人乗りで行く。

自転車といってもママチャリだ。

タオルなどを持ち

俺はサドルをまたぎ優子を荷台に乗せる。

よく恋人同士が二人乗りをしているように

横向きに乗っているやつだ。

優子の腕が俺の腰にまわされる。

ふと優子を見ると不安よりも初めて自転車に

男と乗ることに興味を持ったようだ。

息が弾んでる。

「いくよ。」

うなずく間もなく自転車を走らせた。

ギュッと腰にまわされた腕に力がはいる。

優子の顔が背中に押し付けられる。

いつまでも俺のそばを離れないようにとする気持ちからか。

そんな可愛い仕草に俺の気持ちも熱くなる。

晩秋を迎えるこの時期だが顔に当たる風は心地よい

爽やかさがある。

俺たちは恋人同士なんだ。

他のやつらからみれば年の離れた兄弟に見えるかもしれない。

でも俺も優子もお互いを愛してる。

本当の恋人なんだ。

俺はなるべく人目につかないように自転車を走らせる。

優子の知人に見られることで何かと優子に迷惑をか

けないためだ。

そのためにも人目を気にしながら隣の地区の銭湯に向かう。

いくらなんでも、これから行われる羞恥に満ちた行

為を地元で行うわけにもいかない。

日曜ということもあり人通りの少ない街路を走りぬ

けると銭湯が見えてきた。

自転車から降りた優子は俺の手をすぐに握ってきた。

初めての場所で緊張しているようだ。

俺は手を強く握り返す。

俺の意思が伝わるように。

そして俺と優子はノレンをクグリ、男湯と書いてあ

る引き戸を開けた。




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