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第26章 ちくたく
#N
まーくんからの鬼のような電話とLINEの数から
きっと今になって俺のこと
探し回ってんだろうなって思った。
だから電話して言ってやったさ。
もうかけてこないでって。
・・・明日は大事な大会なんだしさ。
おれのことなんか、もうほっといてよ。
まーくんの電話を切ったあとも
しばらく呆然とその場に立ち尽くしていた。
もう悲しくもない。
怒ってもない。
ただただ虚しかった。
すっかり日が落ちて、街のイルミネーションは
漆黒の空に映えてキラキラと輝いている。
寮まで帰る気力もないし、
今日は実家にでも帰るかな。
・・・駅から無我夢中で走り回って
自分が今どこにいるのかわからないや。
地図アプリを開き、現在地を確認すると、
駅までの道をまた歩きだした。
住宅街に入ると、より一層通りは静まりかえり
家々から聞こえる微かな笑い声に寂しさが増す。
変質者に注意!という看板を見つけ、
ブルっと背筋が震えた。
変質者さんもまさか男の俺に興味はないだろうけど
恋人に浮気された上に襲われたなんてなったら
今日は間違いなく人生最悪の日だ。
地図アプリにはここを右、と表示が。
言われた通り角を曲がろうとすると
N「 っ!っひゃ…!」
急に後ろからガッ、と手首を掴まれ、
そのまま抱き寄せられた。
突然のことに必死で抵抗するけれど、
抱き寄せられたまま体はビクともしない。
こわいこわいこわいっ!
ほんとに変質者…っ!?
まーくんたすけてっ・・・!
A「かずくん…っ 」
N「・・・へ?」
頭上から聞こえたのは
会いたくて会いたくてしょうがなかった
あの人の声。
ゆっくり顔を上げると、そこにはいるのは
変質者じゃない。紛れもなくまーくんだ。
A「かずくんっ…ごめんっ!」
変質者じゃなくて安心したのと、
まーくんに会えた安堵感とで、
ヘニャヘニャと体の力が抜け、
抱きしめられているままに凭れかかってしまった。
A「かずくん?!」
