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第1章 ただいまの季節
A side
久しぶりに見るこのアパートは、
やっぱり古くて。
上がるたび軋む階段も、ちょっと錆びてる
手すりも、端っこが歪んだ郵便受けも、
何もかもが引っ越しする前のまま。
そして、今このアパートに戻ってきた
俺の隣にいるのも、あの日と同じままだ。
「和。」
「ん?」
「ゲームしてないで、ちょっとは手伝ってよ。」
「やだ。」
「もー。」
今日で何回目か分からない会話。
それでもこんな会話だって幸せで、
和の態度にため息をつきつつも
顔は思わずゆるんでしまう。
段ボールの山から、少しずつ荷物を取り出してる
俺に対して、普段の猫背をさらに丸めた姿勢で
ゲームに熱中してる和。
そんな体勢でゲームしてるから腰を悪く
しちゃうんだよって言ってるのに…。
「この土日で荷物片付けとかないと、
週明けたら忙しくなるよ?」
「大丈夫。相葉さんと違って荷物少ないもん。」
それだけいうと、またすぐに視線を
ゲームに戻す。
ここに戻ってきて1日目だっていうのに、
何にもないものなの?
ゲームしちゃうの?って思う俺。
そんなことを考えてたのが顔に出てたのか、
和がこちらをチラッとみてふふっと笑う。
「しょうがないなぁ。」
「何が?」
そういうと和はゲームの電源を落とすと、
俺の方に四つん這いでくると俺の腕を
ぐいっと引っ張る。
向かい合わせになったと思ったら、
俺の脚の間にすっぽりと収まる。
同じシャンプーの香りがどうしようもなく
愛しくて、当たり前のようにぎゅっと
抱き締めると、嬉しそうに和は笑った。