うちの社長が酷すぎる!
第10章 見せかけの愛
公表するかしないかは、雄飛と相談しよう。
まだお互い仕事も入ってないし、時間ならいくらでもある。
と思っていたら。
オフィスの扉があいた音がした。
それ自体は別に普通。人の通り道のオフィスの扉はひとつしかなくて、誰かが通ればあいた音はする。
問題なのは足音だ。
コツ、コツと上質な靴が鳴らす音。やけにゆったりとした足取り。
…最悪、なんか予想できちゃった今後が。
「橘稀乃」
わたしのデスクに伸びる大きな影。
「よぉ、また俺と2人で仕事だぞ」
「…なんでまた宝条社長と……………」
「声に出てるぞ橘稀乃」
出してんだよ……
と思いながら回転イスを半回転して影の方を見やると、宝条社長が資料ぽいものを持って立っていた。
「おら行くぞ準備しろ」
「今ですか!?」
「そうだ、早くしろ」
ひぃぃみんな見てる雄飛も見てるのに
杜山さんに頑張れ!と言われながら引きずられるようにオフィスを出た。
ばたん、と扉がしまったあと。
「…いまの、宝条社長ですよね?橘さんと仲良いんですか?」
雄飛が周りに集っていた女子社員に聞く。
「なんか、お気に入りみたいな?」
「熱愛報道みたくなってたし!」
「でもあれ嘘だったんでしょ?」
その答えをきいて、雄飛は
「…ふぅん」
とだけ呟いた。