うちの社長が酷すぎる!
第5章 きみの瞳に
「稀乃!」
声を掛けられ、振り返る。
走ってきたらしいヒカルさんが手を振っていた。
「ヒカルさん!こんにちは」
「こんにちはって……まぁ、そうだな。こんにちは」
一瞬だけ不服そうな顔をしたけど、そこから優しく微笑んでくれるヒカルさん。
走ってきたからか少し息が上がっていた。
「走ってこなくても良かったのに。まだ予定より早いじゃないですか」
「……そりゃ、女待たせといて悠々と歩いてくるほど俺は酷くねーよ」
ばーか、と言いながらヒカルさんは自分が来ていたジャケットを脱ぐ。
「…暑いんですか?もう結構寒い時期なのにー…」
バサ、という音と共に視界が暗くなる。
一瞬分からなかったけど、すぐなにか被せられたと理解出来た。
「…えーと、うん。俺暑いから、ジャケット持っててくんね?んで、あと着てて」
「ーえ」
「着 て ろ」
「あ、はい!」
乱雑に被せられたジャケットを、自分の腕に通す。
…もしかして、寒かったのを気遣って?
と思ったけど本人は暑い「らしい」からそれに黙って従うことにした。
…もう、隠せてないじゃん。優しさが。
隠そうとしても耳まで真っ赤なのばれてますよ!