眠れない夜を抱いて
第4章 瀬戸際の優しさ
相葉さんは自分で自分の身体をきつく抑え、下を向いて必死に何かを抑えようとしている
かくいう俺も、同じように強い疼きに苛まれていて、気を抜けばおかしな声が出そうになっていた
だけど聞いた話では、ヒートを起こしたαは理性なんてものは働かなくなる筈
なのに相葉さんは、ギリギリの処で自我を保ってくれている
「にの…っ」
相葉さんの声だけで、自身が更に過敏に反応する
自分で慰めたくなるのを必死に堪えるだけでも辛いとこまで追い詰められている
今さら飲んで、効くとは到底思えないけれど
少しでもこのフェロモンが治まれば相葉さんは楽になれるかもしれないし、俺も多少はこの熱から逃げられるかも
まだお互い理性があるうちに、少しでも
震える手を叱咤しながら、カバンの中を探り
綺麗に整理された中身をぐちゃぐちゃにする程焦りながらも、漸く指に求めていたものが触れた
今、手元にあるのはこの1錠のみ
落としたら最後だと、おぼつかない指を必死に抑えながらパッケージを開け、口にいれようとしたその瞬間
「あ…っ!」
タクシーの強い揺れに、その錠剤は真っ暗な足元に吸い込まれてしまった