眠れない夜を抱いて
第5章 揺れる。
自分の手を犠牲にしてまで、俺を尊重してくれた相葉さんに、俺は何と答えればいいのだろう
「なぁ、にのは何がそんなに怖いの?」
「…怖いって言うか………」
「あのさ、俺はその何も知らないとこからスタートしたんだぞ」
知ってる
大野さんは、今でこそ落ち着いて淡々としているけれど
傍でずっと見てきたんだ
どれだけ苦しんで、泣いて、…そして今の生活があるのかを
「お前はさ、それを知ってるから余計慎重になってるんだよ」
“ま、そしたら俺が悪いのか“
自嘲気味に苦笑した大野さんが立ち上がり、キッチンに向かう
戻ってきた時には、2つのカップに沸かし立てのコーヒーが両手に持たれていた
「別に大野さんが悪いなんか…」
「分かってる。ちょっと言ってみただけ」
大野さんがさらりと翻す
いつもそうやって俺が深刻に沈む前に救い上げてくれる
「Ωである以上、結局最終的な選択肢なんかないんだからさ」
「うん……」
「だったら、せめて自分が良いと思った奴が番になるのが…俺らには最良なんだよ」