ペンを置いた日
第2章 初めての気持ち
男の怒鳴りに、少女は言葉を失う。
「これを、見てみろよ。僕がしてきた努力の成果だ。高校一年の時から応募し続けて十一年、それだけの月日頑張っていても、報われない奴は報われない。僕はもう諦めたんだよ、辛いんだよ、自分の情けなさと向き合うのは。だからもう、やめてくれよ。僕は今日、こんなことをしにここに来たわけじゃないんだ。早く掃除を終わらせて、家族と思い出話でもしたいんだ、だから早く、早く消えてくれよ」
「.........」
少女は、男の腕から手を離した。
一歩後ろへ後退し、俯きながら、独り言のように呟く。
「あなたはこんな人ではないはず。絶対に、違うはず」
二歩下がって、また呟く。
「いつも私たちを描いて楽しそうに微笑んでいたあなたは、今も尚変わらないはず」
三歩下がって、またまた呟く。
「なのに、どうしてなのですか」
「.........」
男は、少女の顔を直視できない。
少女の泣き声が聞こえてくるから。
見れない。
「あなたが漫画を描き始めたのは、今日と同じ八月六日の、晴れた日でした。蝉の声がうるさくて、蚊の音がうるさくて、でもあなたは、静かに、ペンを持って机に向かっていました」
「.........」
「初めて描いた漫画は、その日の内にペン入れまで終わってしまいました。その出来栄えは酷いものでしたが、しかしあなたは漫画家への一歩を、確実に実感していたと思います。それから何度か週刊誌に持ち込みへ行き、アドバイスをもらっては描き直し、賞へ応募しても報われず、お金も溜まらず、苦労したと思います」
「.........」
「専門学校を卒業し、親からのプレゼントとしてパソコンを貰い、今度はそれを使って漫画を描きました。それも、その日の内に完成し、数年前とは確実に出来の違う良いものができたとそう思っていたと思います」
「.........」
「これを、見てみろよ。僕がしてきた努力の成果だ。高校一年の時から応募し続けて十一年、それだけの月日頑張っていても、報われない奴は報われない。僕はもう諦めたんだよ、辛いんだよ、自分の情けなさと向き合うのは。だからもう、やめてくれよ。僕は今日、こんなことをしにここに来たわけじゃないんだ。早く掃除を終わらせて、家族と思い出話でもしたいんだ、だから早く、早く消えてくれよ」
「.........」
少女は、男の腕から手を離した。
一歩後ろへ後退し、俯きながら、独り言のように呟く。
「あなたはこんな人ではないはず。絶対に、違うはず」
二歩下がって、また呟く。
「いつも私たちを描いて楽しそうに微笑んでいたあなたは、今も尚変わらないはず」
三歩下がって、またまた呟く。
「なのに、どうしてなのですか」
「.........」
男は、少女の顔を直視できない。
少女の泣き声が聞こえてくるから。
見れない。
「あなたが漫画を描き始めたのは、今日と同じ八月六日の、晴れた日でした。蝉の声がうるさくて、蚊の音がうるさくて、でもあなたは、静かに、ペンを持って机に向かっていました」
「.........」
「初めて描いた漫画は、その日の内にペン入れまで終わってしまいました。その出来栄えは酷いものでしたが、しかしあなたは漫画家への一歩を、確実に実感していたと思います。それから何度か週刊誌に持ち込みへ行き、アドバイスをもらっては描き直し、賞へ応募しても報われず、お金も溜まらず、苦労したと思います」
「.........」
「専門学校を卒業し、親からのプレゼントとしてパソコンを貰い、今度はそれを使って漫画を描きました。それも、その日の内に完成し、数年前とは確実に出来の違う良いものができたとそう思っていたと思います」
「.........」