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ジッパー様

第20章 過去の記憶

「ルーアニアの貴族だそうよ。鼻が高くて、とてもハンサムだったわ」


 ルーアニア……知らない国だ。
 そもそも私は学校に行ってないし、行動範囲も狭いから、あまり世間のことを知らない。


「ふふっ、サヤがうまくいったら私もルーアニアについて行こうと思うの。外国で暮らすなんて夢のようだわ」

「……」


 そうしたら私はまた父と二人きりになってしまう。旦那様を迎えたとしても、うまくやっていけるかどうか……。


「だからシホ。これ以上、サヤの邪魔はしないでね」

「……っ……」


 私は母に睨まれて目を反らした。


 安心して、お母様。
 私はここを出て、外国になんて行けないから……。私は九条家のために子孫を残さなければいけないから……。


「そろそろ準備はできたかい?」


 扉をノックする音が聞こえると、父が部屋の中に入ってきた。


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