Hello
第40章 櫻井くんと俺ら②
「……翔ちゃんさ、ちゃんと飯食べてる?」
目の前で、元気に寿司を頬張る翔ちゃんに、それは愚問のような気もするが、あまりの変貌に聞かずにはいられなかった。
すると、翔ちゃんは、にんまり笑った。
「……食べてるよ。でも、どうしても遅い時間になるときは、食べずに寝ちゃう。飲みにいってもあんま食わないようにしてる。その方が朝、体が軽くて」
そうしたら、自然と体も絞れてきたんだ、と翔ちゃんはビールを美味しそうに飲んだ。
「……そうなんだ」
なーんだ。心配したのに。
拍子抜けするが、忙しくて食べる暇ないとか、ストレスで食べれないとか、そんなんじゃなくって、よかった。
「なに?心配してくれたの?」
「そりゃね……」
嬉しそうな翔ちゃんの顔を見てると、なんだかほっとして、手をつけてなかった自分の皿に箸をのばした。
「あ、これ美味しかったよ」
目の前に、海苔巻がにゅっと差し出される。
あーん、と言われて、反射的に口を開けた。
磯の香りのする少し小ぶりなそれが、口のなかに押し込まれた。
「うまいでしょ?」
「…………ぅん」
桜でんぶがききすぎて、ひどく甘い海苔巻きだった。
だけど、恋人同士みたいなことを、久しぶりにして、ちょっと嬉しかった。
風呂上がりの翔ちゃんは、俺のうちに置きっぱなしにしていたパジャマを、きっちりと着て寝室に入ってきた。
ベッドに寝転んでいた俺は、いじっていたスマホを閉じ、思わず笑った。
「……どーせ脱ぐのに」
起き上がって呟いたら、翔ちゃんはちょっと赤くなって、ぼそりといいかえす。
「……んな、あからさまなこと言わない」
俺よりでっかいのに、翔ちゃんが異常に可愛くなる瞬間だ。
「こっち」
「…………うん」
手を伸ばせば、翔ちゃんは、静かに俺の腕の中におさまりにきた。
久しぶりの温もり。
ふわふわした髪の毛に鼻をうずめると、翔ちゃんは、くすぐったそうに体を縮めた。
俺より体温が高いから、抱きしめていたら湯タンポみたいで、そのまま離したくなくなっちゃう。
そう前に言ったら、あなたは本当に寝るだろうね、と大真面目に返されたっけな。