Hello
第42章 from jealousy * バンビズ
これでも、どこにも寄り道しないで真っ直ぐここに来たんだけどな、と俺は思ったが、黙ってた。
……翔さんは、ソファからおもむろに立ちあがり、ゆっくりと俺に近づいてくる。
「……」
少しずつ近づく大きな瞳を、黙って受け止めた。
……その瞳の色は、何を考えてるかまったく読めない。
メディアでみる優等生な色でもない。
五人でいるときの兄貴な色でもない。
ひたすらに真っ黒で、底無しの暗ささえたたえてて。
この目をされると、恐怖すら感じる。
すっとのばされた白い手が、あやすように俺の頬にそっと触れた。
……トクンと心臓が波打った。
翔さんは俺を試すように、頬をなぞり、包み込むように触れた。
瞳は冷たいのに……手のひらは温かいんだな。
そう思いながら、息をつめてると、そんな俺の様子を見て、翔さんはおかしそうに目を細めた。
そして。
「脱げよ」
まるで、世間話をしているかのように、さらりと一言言い放った。
「……」
俺は、ぎゅっと唇をかむ。
そのセリフがでてくることは、翔さんの瞳を見たときから分かってた。
分かってたけど……何度言われても、なんだか切なくて涙が出そうになる。
愛も感情もこもってない、ただの指示。
ただの命令。
脱げって。
……俺はなに?
ねえ……俺はいったいあなたのなんなの。
聞いたところで、答えてくれるでもない。
早くしろと、怒られるのが関の山。
仕方なく、俺が、ノロノロと身につけている時計やらの貴金属をはずしていると、
「……アクセサリーは外すな」
低く制された。
チラリと翔さんをみると、翔さんは薄く笑って、手首を指差していた。
……たしか、前に一度、ただの裸体より、何かつけている方が、いやらしいとかなんとか言っていた。
……変な趣味。
俺は、バングルやネックレスは、そのままにしてTシャツを脱ぐ。
ベルトを外しながら、ちらっと翔さんをみると、彼は、きっちりと服を着たまま、ソファに足を組んで座ってた。
体は繋げないのかな、と思って、
「……全部脱ぐの?」
と聞いたら、
「あたりまえだ」
と、かえってきた。