テキストサイズ

Hello

第44章 可愛い人は *山


Sho


どちらかの家。
または、車の中。

完全に閉鎖された空間でないと、恋人の顔になることを無意識に禁じてる俺たち。

だけど、こんな変装ならば、あたりまえに恋人同士がすることもできてしまうんだね。

用心深く、手を離そうとする智くんを、無理矢理言いくるめて、繋いだままにする。


俺より華奢で細い指。
小さなからだ。


いとおしくてたまらなくて。
抱きしめたくなって困った。


智くんは、この指でいつも魔法のような作品を生み出し、薄い肩で、リーダーという荷物を背負い、俺らより小さな体で……嵐を支えてくれてる。


「ねぇ」


そっと呼び掛けた。

智くんは、ん?というように俺を見上げる。

繋いだ手のひらから、智くんの温もりが伝わってきて……ああ、俺はやっぱりこの人が好きだ、と思った。


「ヨーヨーつり。しようか」


俺は、比較的、人の少ない目の前の店に智くんをつれてゆく。
カップルみたいなことが無性にしたかった。


「え……できるかな」


小さな声で、智くんはちょっと嬉しそうに目を輝かせた。




「はい、彼女どーぞ。彼氏も?はい、これね」


ポケットをまさぐって出てきた小銭を数え、屋台の真ん中で大きく足を開いて座る、強面なにいちゃんに渡す。

すると、ちいさなコヨリをわたされた。

プラスチックの引っかけがついた頼りないコヨリ。

……こんなんで、こんなでっかいヨーヨーつれんのかよ。

不審に満ちた気持ちで水のなかに、チャポ……といれると、そのコヨリはあっという間にちぎれた。


「あーあ……」


思わずため息がでる。
5秒で400円が消えた……。

がっかりしてる横で、


「お。彼女上手!」


にいちゃんが、褒めている。

え?、と、目をやれば、智くんは、器用に次々とつりあげて、持ってるちいさな桶をまたたくまにヨーヨーだらけにしていっていた。


「……魚だけじゃなくて、ヨーヨーつるのもうまいんだね」


俺がささやくと、早くもゲームオーバーになってる俺を見て、智くんは声をたてずに笑った。

はっや!って笑われてるみたいだった。



「じゃ、彼女、好きなのひとつどーぞ」


智くんは微笑んで。
赤と青の波模様のラインの入った大きなヨーヨーを指にかけた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ