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Hello

第44章 可愛い人は *山


Sho


暑いなか、慣れない姿で歩き回ったせいだろう。

タフな智くんが、珍しく「座りたい」と言った。
下駄が痛いらしい。

なるべく人目の少ないところのベンチに向かう。
どんなタイミングでばれるか分からないから、騒ぎは最小限にしたい。

でも、蚊がブンブン飛んでくるかもしれないなぁ。
虫除け持ってきたらよかったな……。

なんて考えながら、よいしょ、と智くんの隣に座ったら。


今度は、「翔くん、喉かわいた」だって。


今日は、お姫様スイッチ入ってんのかな?
こんな、我が儘もちょっと可愛いな。

上目遣いで、申し訳なさそうに言うもんだから、参った。
ここが外でなければ、間違いなく襲っちゃう顔じゃん。


俺は、ポケットの小銭を思い浮かべながら、自販機がないか立ち上がった。
すると、通りを挟んだところにある屋台に、氷の旗がゆらゆらしてるのを見つけた。


暑いし、二人でかき氷もいいな。


そう思って、俺は、ちょっと待ってて、とその場を離れた。




氷の屋台は、暑さのせいか、少し並んでいたけれど、何食わぬ顔をして、列に加わる。
オレンジ色のライトの下、ケバいおばさんが、大きな声をあげながら注文をとってた。


あちゃ……声、ばれるかな……。
ま、いいか。


「イチゴとブルーハワイひとつずつ」


キャップのつばを深くして、気持ち低めの声で注文した。


「あいよ!」


ヤンキーみたいなおねえちゃんに、カップからこぼれそうなほどの氷にざくっとストローをさしたものを手渡される。

なんだかこんなの食うの久しぶりだな、とちょっとワクワクしながら、それらを両手にその場を離れた。



足早に、ベンチに帰りながら、ふと異変に気づく。


……あれ……


智くんの前に二人ほどチャラい学生みたいなのが立ってるのが分かった。

何やら智くんに話しかけてるけど、智くんはうつむいたまま。

俺らが人目を避けて座ったベンチは、格好のナンパ場所になり得たのか。
これは、完全に裏目に出た。


まずい……



俺は、走り出した。

変装がばれたら終わりだ。

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