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Hello

第44章 可愛い人は *山


Satoshi



チャラい格好で、ドライブ行こーぜなんて、まるでこれがナンパです、というお手本みたいなことされてるな……。


冷静に考えながら、俺は、ガン無視でうつむいた。
変装してるとはいえ、よーくみたら俺だってばれるかもしんない。
まして、声なんか出したら、男だってわかっちゃう。


「ねぇ、彼女?お友達ときてんの?」


片方が、しゃがんで俺をのぞきこんできた。
猿みてーな顔。
見んな、バカ。


固く口を引き結んで、じっと黙った。


「君、めちゃめちゃ、可愛いね。じゃあさ、ちょっとさ、お茶行こう?ほら、あそこのファミレス」


もう一人の馬みたいに長い顔をしたやつが俺の手を握ってきた。


触んな変態!


俺は、黙って手を振り払った。


どーせファミレスなんか、行かないでどっかに連れ込む気だろ?
こんな若者が増えるから、世の中はダメなんだよ。


「ね、ほら」


もう一人にも手を握られ、引っ張られる。


げ、マジか。


俺は渾身の力で、その手も振り払った。
気持ち悪い。
翔くん以外に触れられたくなんかない。


ふいっと横を向いたら、二人がかりで手を引っ張られた。


「行こう行こう」

「そこに車停めてるから」


何すんだよっ!と、叫びたいけど、叫べない。
人目につきにくい場所だけに、誰にも気がついてもらえない。


チャラ男の二人の力に急に怖くなる。


バレたらどうしよう。
連れ込まれたらどうしよう。
襲われたらどうしよう。


「わ……っ」


下駄がつっかかって、転びそうになった。


翔くん…………!!


ぎゅっと目を瞑った。

瞬間、俺の肘が異常に冷たい手につかまれ、反対側にぐいっと引っ張られた。


「……離せよ。俺の彼女なんだけど」


低い……低い声。
怒ってるときしか聞いたことない声。

でも、膝の力が抜けるほど安心した。





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