テキストサイズ

Hello

第49章 大事な人は * 山


「どうしたの」

「……別に」


小さく反論してくる声は、微かにとげとげしくて。

んー……俺、なんかしたかなぁ……


考えながら、会話から糸口をつかもうと、何食わぬ顔で話をすすめた。


「ご飯は?」

「食った」


なるほど。
シンクには刺身の空パックが捨ててある。
一人で食べたのかな。
冷蔵庫をあけたら、もう一パック。
これはきっと俺のぶん?
兄さん、買い物行ってくれたんだね。


「……じゃあ、一杯だけ俺につきあってくれない?」


いいながら、トートバッグの中から小さな包みを出した。


「はい」


突然目の前にだされた銀のパッケージに、兄さんは不審な目を向けた。


「……なに?」

「何って。バレンタインデーでしょ」

「……俺に?」

「他に誰がいるの」

「翔くんから?」

「そ。言っとくけどちゃんと俺が買ったやつだよ。使い回しとかじゃないからね?」


はい、ともう一度つきだすと、兄さんは、ぎくしゃくとそれを受け取った。


「……ありがと」


ちょっと嬉しそうな顔をしたから、ほっとする。
そこまでご機嫌斜めではないのかな。
続けてバッグから、買ってきた日本酒を出す。


「これね、チョコにも刺身にもあうって」


松潤から教わった吟醸酒。
濃い藍色のボトルがお洒落だ。
兄さんと飲みたいんだって言ったら、手配してくれたんだよね。
感謝、感謝。


「……これも翔くんが?」

「そうだよ」


ぽつりという兄さんに、にっこり笑ってみせた。


「俺は夕食にするから。兄さんチョコ食べてね」

「……夕食……食ってないの?」

「食ってないよ」

「……なんだ」



兄さんの纏う空気が少し緩んだ。


あれ?


そんなことで機嫌なおるの?

内心驚いてたら、兄さんはゆっくりソファーから立ち上がった。

そうして俺の前に立ちその綺麗な手を俺の頬に這わした。
少しひんやりした指が俺の顔を包む。

何か言いたいけど、ためらっている顔。
俺より少し低い目線。

この人は、考えてないようで人一倍いろんなことを考えてるから。
それをうまく引き出すのが俺の役目ではあるんだ。

でも……


考えてるうちに、ひんやりした唇が、俺のに重なり、力強い腕で抱き寄せられた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ