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Hello

第53章 可愛い人は ② * 山

去年同様、会場から少し離れた駐車場に車をとめ、エンジンを切った。

智くんの地元で行われる祭りだから、規模が小さいとはいえ、嵐だとばれるわけにはいかない。

なるべく芸能人オーラを消し、まわりに溶け込むことを意識しなくてはならない。

浴衣を着た智くんにも、ちょっぴりスイッチが入ったみたい。

その気になってくれたかな。
若干強引に物事をすすめてしまったから、へそを曲げられたらどうしようかな、と思っていたけど。

大股を広げてた足は揃えられ、俺を見上げる目は、艶っぽく、彼女のそれになってる。

俺はリアシートに放り投げてたキャップに手を伸ばした。


「……今日は絶対に離れないからね」


声をかけたら、去年のことを思い出したのか、智くんは、ばつが悪そうに肩を竦めた。


「あれは……別に翔くんが悪いわけじゃないじゃん」


かき氷を買いに、智くんを一人残してその場を離れたら、智くんがナンパされるという嘘みたいなことが起きたことを思い出す。


「違うよ。あなたを一人にした俺の責任。」


智くんの指に、するりと俺の指をからめた。
智くんが、つと顔をあげる。
グロスのついたぷるぷるの唇が、何か言いたげにあけられたけど。


「…………」


俺はチュッとその唇に軽くキスをして微笑んだ。


「今年も。ヨーヨーつりしようか」

「……翔くん、秒殺なのに?」

「今年は、わかんないよ?」


はにかむ智くんに、俺は得意気に言い切り、手にしてたキャップを深くかぶった。

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