テキストサイズ

Hello

第58章 可愛い人は③ * 山


「だって。去年のサトコちゃん、めちゃくちゃ可愛かったもん」

「……そりゃどうも」


言い訳すると、智くんは、ぷいとそっぽを向く。
照れてるんだろうな。
俺は、くくっと笑って、下駄を脱いだ。

足がじんじんする。
親指のとこ、真っ赤になってる気がする。


「智くん……こんな下駄でよく歩けたね」


一応女子設定だから、下駄も女性ものだ。
男性ものより細身で作られているから、甲を締めつけられる感じが、疲れを助長してる気がする。

俺が足をさすると、智くんは同じように俺の足を撫でて、ふふっと笑った。


「うん……でもこれでタップをすることに比べりゃはるかにマシだよ」

「ああ…下駄ップだったっけ?」


かつての京都の舞台での演目のひとつ。
下駄でタップダンスを踊るという、難しいものだ。
俺も、もちろんジュニアとして参加したから練習したけど、ほぼ毎日何公演もこなしていた智くんの比じゃない。

あの頃の智くんは、ほんとにストイックで……プロ意識の違い、というか。
実力の差をまざまざと感じた覚えしかない。


「……もうできないな」


智くんが懐かしそうに俺の足元をみるから、


「できるよ」


思わず身を乗り出してしまった。
智くんが、え?と、笑った。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ