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Hello

第58章 可愛い人は③ * 山

「振り付けは?覚えてるの?」

「……もう忘れたよ」


俺のつっこみに、智くんは、肩をすくめて手を振った。


「ちょっとさ、やってみてよ」

「忘れたって」

「見たい。智くんのダンス。ショウコのお願い」

「(笑)……はぁ?」


無茶ぶりなのはわかってる。
でも、どうしても見たくなった。


あなたのダンス。


俺は、おもむろに下駄をつっかけて、フカフカした芝生を横切り、目の前のアスファルトの通路に立った。

そうして、コン……と、下駄の歯を通路にうちつけた。

浴衣の裾を少しだけまくり、もう一度、コン……コンと、うちつける。


「……翔くん……?」

「ねぇ……こうだっけ?」


振り付けなんかとうに忘れてるけど、見よう見まねで、コンコンと、足を動かす。


「……翔くん。足痛いんでしょ。無茶したらだめだよ……」

「うん……、あ、こうか」


智くんの忠告に生返事を返しながら、カンと、下駄で別のリズムをふんだ。

こんなアスファルトは稽古場や舞台の床とは違う。
音だってきれいに鳴らないし、足に跳ね返ってくるテンションも違うから、負担もかかる。


……智くんは、しばらくそんな俺をみつめてたけど、仕方ないな、というように、自分のサンダルを脱いだ。


「かわって」



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