Hello
第58章 可愛い人は③ * 山
「女物でやるの初めてなんだけど……」
うーん……、とうつむき、考えながら、小さくカンコンと鳴らしていた智くんは、突如、カラン……と軽快な音を踏んだ。
俺は、智くんのサンダルを拝借し、そんな智くんをみつめる。
智くんは、唇を尖らせて動きを頭で反芻し、しばらく黙ってたけど。
「一回だけね?」
と、前置きして、いったん呼吸をしずめた。
そうして、コン、コン、と両足で跳んだかと思ったら、カランコロンカッカッと、軽快なステップを踏み出した。
うわぁ……うわぁ
もちろんこんなの彼の実力の三分の一もでてないだろう。
ほんのお遊びだとわかってる。
でも、お遊びでも、今このときに彼のタップを自分だけが見れる幸せと優越感は半端じゃない、
脳裏によみがえるのは、誰も寄せ付けようともしなかった孤高のオーラをふりまいてる若かりし彼。
深くキャップをかぶり、踊ってる姿は、いつもの可愛い智くんではない。
俺が憧れた先輩が、そこにいた。