Hello
第35章 大野さんと僕ら
Sho×
俺の誕生日を、どこでどうやって祝おうか、ずいぶん前から考えてくれていた翔ちゃん。
でも、ただでさえもハードな年末にむかうこの時期。
さらに翔ちゃんは、俺に輪をかけて、ものすごい過密スケジュールだ。
俺は、どうとでもなるけれど、翔ちゃん側は、どうこねくりまわしても、当日に一緒にゆっくり過ごす時間を捻出することができなくて、彼は、頭を抱えていた。
だから、見かねて言ってやったんだ。
一緒にいてくれるだけでいいって。
なんにもしなくていいって。
食事も品物もいらないって。
だから、どんなに遅くてもいいから、当日、顔だしてって言ってやったんだ。
翔ちゃんは、大きな目を細めて、うん、と頷き、必ず行く、と言ってくれた。
それが、一週間前の話。
『やっと終わった!今から行くよ』
絵文字を交えたラインが届いたのがつい先程のことだ。
今日が終わるまで、あと一時間。
「すご……間に合ったじゃん」
俺はスマホをおき、立ち上がった。
自分の誕生日に、自分でごちそうを用意するのは、微妙だけど、翔ちゃんと過ごすためならば、苦じゃない。
それも、刺身なら、なおさらだ。
翔ちゃんは、貝が好きだし、一石二鳥だ、と、魚介の盛り合わせを作ってみることにした。
さっき、鯛をさばいて、冷蔵庫にいれておいたから、あとは美しく盛るだけ。
これにおいしい焼酎か日本酒をつけたら、もうそれだけでテンションあがるしね。
美味しそうな赤貝も手に入ったし、きっと翔ちゃんは、喜んでくれる。
「刺身のつま……も少しいるかなぁ」
大根を手にして、クルクルと皮をむいた。
俺は自分でいうのもなんだけど、意外と器用なんだぞ。
スライサーにあて、力強くシュッシュッとかけていけば、みずみずしいつまが次々に出来上がって行く。
「うまそ……」
刺身の盛り合わせの色彩を思い描きながら、手を動かす。
そのとき、一瞬だけ手元から、リビングにかかる時計に視線をはずした。
シュっ
「……」
一瞬何が起きたか分からなかった。
だけど、真っ白な大根のボールに、サッと赤い液体が広がり。
二拍くらいあけて、
「うわっ」
と、変な声がでた。